【連載】制度で選ぶ?暮らしで選ぶ?高齢化社会を支える道具の話 ①
「福祉用具」と聞いて、どんなモノを思い浮かべるでしょうか。 車いすや介護ベッドなど病院や施設で使う、特別な道具という印象を持つ人もいるかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか。
高齢者と一緒に歩いたとき、歩幅が小さいなあ、段差で立ち止まる時間が長いなあ、と感じたことはありませんか。親がお風呂から出るときに、どこか支えがあれば安心なのにと思ったことはありませんか。それは「介護が必要」という出来事ではないけれど、手を差し伸べたくなる小さな変化です。
そんな小さな変化を支える道具を「福祉用具」と呼びます。
実は、身近な「便利グッズ」の延長線にある
ここで少し視点を変えてみましょう。
世の中では、数多くのメーカーが知恵を絞って、高齢者や障がい者が元気に暮らせるツールやグッズを生み出しています。例えば・・・
- 握りやすいカトラリー
- 立ち上がりやすい椅子
- 転びにくいマット
これらは年齢に関係なく「普通に使って便利なんじゃない?」と思えるものばかりです。 中には、常識を変えるようなユニークな工夫が詰まった製品もあります。
つまり、福祉用具は“特別な人のための特別な道具”というよりも、「その視点はなかった!」と感じる「便利グッズ」とも言えるのです。
ユニバーサルデザインという考え方
ところで、世の社会は、自立している人が効率的に動けるよう設計されています。階段は、自由に歩ける人が使う場合には問題ありませんが、足の骨を負った人にとっては、試練です。こうした障壁(バリア)をなくす(フリーにする)という考え方が、バリアフリーです。
さらに、年齢や身体状況に関係なく、多くの人にとって使い易いモノを設計するという考え方に「ユニバーサルデザイン」があります。バリアを無くすのではなく、はじめから多様な人にとって使いやすい設計をしよう、という考え方です。
例えば・・・
・大きくて見やすい表示
・力が弱くても開けやすい構造
・つまずきにくい形状
こうした設計は、高齢者や障がい者だけでなく、子どもや妊婦、けがや病気の方にも役に立ちます。多くの人に使ってもらえれば流通量が増え、結果として価格も抑えられます。
「特別な道具」ではなく「みんなが使える道具」になることで、手に取りやすくなるのです。
そう考えると、使いやすいモノは、年齢に関係なく早くから使ってもよいのではないでしょうか。
では、何が「福祉用具」なのか
ここで改めて考えます。
福祉用具とは、 日常生活の動作を支え、自立を助けるための道具です。
- 歩く
- 立ち上がる
- 座る
- 身体を洗う
- 食べる
- 着替える
- 排泄する
生活の基本動作を支えるものが、その対象になります。
ただし、生活の基本動作を支える道具には、 国の保険制度の中で、公的な補助があるものとないものがあります。
車いすや介護ベッドの多くは、介護制度の中で借りることができます。 一方で、介護用の靴や紙おむつ、見守りカメラなどは、生活を支える道具ですが、原則として保険の対象外です。制度上の位置づけが異なるからです。
ここまで読んで、「似たような制度を聞いたことがある」と思った方もいるかもしれません。
生活を支える=「介護保険」ではない
実は、生活を支える道具には、異なる法律に基づく仕組みが存在します。
- 介護保険法 ⇒ 主に加齢に伴う心身の機能低下に対応する制度
- 障がい者総合支援法 ⇒ 身体・知的・精神などの障がいがある人の自立と社会参加を支える制度
どちらも「生活を支える道具」を扱いますが、身体の状態や年齢、障がいの有無、原因となった病気やけがによって、利用できる制度は異なります。同じ車いすでも、介護保険の対象になる場合と、障がい者総合支援法に基づく補装具として扱われる場合があります。また、介護保険制度は定期的な見直し(※)が行われているので、状況によっては対象となる制度が変わるかもしれません。
【出典】厚生労働省,令和6年度第3回「介護保険福祉用具・住宅改修評価検討会」資料5「介護保険制度における福祉用具の範囲の考え方」の見直しについて https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001429605.pdf ,p.1 より
「どの制度が使えるのか分からない」と感じたときは、福祉用具専門相談員などの専門職に相談するのが安心です。ただし、すべてを任せきりにするのではなく、制度の基本や選択肢をある程度理解しておくことで、相談の質は大きく変わります。
「便利そう」だけではなく「使う人の状態に適しているのか」「介助者の負担を減らせるのか」、本人や家族の状況を整理し、制度の知識を持つことが、納得できる選択につながります。
【用語】
■ 福祉用具:
介護保険法に基づいた介護保険制度において、要介護・要支援認定を受けた高齢者が利用できる生活支援用具。車いすや介護ベッドなどの貸与種目、入浴用いすなどの販売種目、住宅改修がある。利用時は原則1~3割の自己負担。■ 日常生活用具:
障がい者総合支援法に基づき、日常生活を円滑に行うために給付される用具。ストーマ装具、入浴補助用具、情報・意思疎通支援用具などが含まれる。市町村が種目を定め、基準額の範囲内で支給される。■ 補装具:
障がい者総合支援法に基づき、身体機能を補完・代替するために個別に作製・適合される用具。義肢、装具、車いす、補聴器などが含まれる。身体状況に合わせて専門的評価を経て支給され、原則として公費負担(一定の自己負担あり)で給付される。■福祉用具専門相談員:
高齢者や障害者が福祉用具を利用する際に、本人の希望や心身の状況、置かれている環境等を踏まえて福祉用具・介護用品を選定・提案し、適切な使い方を指導・点検する専門職。
地域での暮らしを続けるために
使いやすい道具は、年齢に関係なく生活を快適にし、便利な道具を早く取り入れることは、転倒を防いだり、自立心を保ち続けたり、生活の質を保つことにつながります。介護は、ある日突然始まるものではなく、小さな変化の積み重ねの中で静かに進みます。
だからこそ、「困ってから慌てて調べる」のではなく、「元気なうちに情報を集め」「使い方に慣れておく」ことに意味があります。
この連載では、
- 制度の中で使える道具
- 制度の外で選ぶ道具
- それぞれの違い
- 価格や導入・保守の手間
- 家族が迷いやすいポイント
を一つずつ整理していきます。
「福祉用具ってなんだろう?」
その素朴な疑問から出発し、 慣れ親しんだ地域での暮らしを続けるために何が使えるのか、制度と市場の両方の視点から考えていきます。


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