弾丸6時間半、富山への「音」と「味」を訪ねる旅

全盲の僕に見えること~地域移行しています~(第11回)

(文・写真撮影:筒井 安彦

プロローグ、3月の風に誘われて

iPadライフクリエーターとしての日々は、常に新しい刺激と情報の集積だ。しかし、時にはデジタルデバイスの画面を閉じ、物理的な「移動」そのものをコンテンツにする必要がある。3月初旬、私はまだ冬の名残が色濃く残る北陸・富山へと向かった。

今回の旅の目的は、ある種の「確認」に近い。滞在時間はわずか6時間半。取材としては極めてタイトなスケジュールだが、そこには移動手段そのものを楽しむという贅沢な目的も含まれていた。

最新型「特急ひだ」で味わう、新しい空気感

12時48分、名古屋駅。私の旅はここから始まった。乗車するのは、高山本線を駆ける「特急ひだ」の富山行き。特筆すべきは、これが最新型車両「HC85系」であるということだ。車内に足を踏み入れると、そこには「新しい空気感」が漂っていた。新車の香りと、洗練されたインテリア。ハイブリッド車両特有の静粛性が、旅の始まりを上品に演出してくれる。

そして、座席を探して通路を歩いていた時、ある「発見」があった。座席の通路側の手すり付近に、何やら凹凸を感じたのだ。「なんだろう、この模様は? デザインの一部かな?」最初はただの幾何学的な模様だと思っていた。しかし、指先で入念にその感触をなぞってみて、私は驚きとともに深い感動を覚えた。それは「点字サイン」だったのだ。

ユニバーサルデザインが叫ばれる昨今だが、列車の座席にまでこうして点字が施されているのは、視覚に頼らずとも情報を得ようとする人々への、鉄道会社の静かな、しかし確かな配慮の現れだ。この小さな凹凸が、私に最新型車両の「真の優しさ」を教えてくれた。

幸いなことに、当日は取材機材を含め荷物がやや多かったのだが、終点まで隣の席に人が来ることはなかった。私は広々とした空間を独り占めし、車窓を流れる飛騨の山々を眺めながら、用意していたおやつを口に運んだ。ゆったり、のんびり。この贅沢な「空白の時間」こそが、創作意欲を刺激する。

念願の「8番らーめん」と富山の洗礼

富山駅に降り立つと、名古屋とは明らかに違う冷気が肌を刺した。滞在時間は限られている。私が真っ先に向かったのは、北陸のソウルフード「8番らーめん」だ。

「富山に来てまでチェーン店を?」と思う人がいるかもしれない。しかし、その土地で愛され続ける味には、必ず理由がある。湯気が立ち上る一杯を目の前にし、麺を啜る。野菜の甘みと安心感のあるスープが、冷えた体に染み渡る。店内の暖かさに包まれながら、私は「わざわざこの一杯のために来たのだ」という充足感に浸っていた。

しかし、一歩店を出れば、そこは厳しい北陸の屋外だ。駅周辺は風が強く、次の移動までの時間潰しも一苦労だった。iPadを取り出して作業をしようにも、指先が悴む。取材の合間の「待ち時間」をどうデザインするか、それもまた旅の醍醐味であり、難しさでもある。

富山駅のホームで撮影
富山駅のホームで撮影
身に染みた8番らーめん
身に染みた8番らーめん
「やらかし」と昭和の解決法

そんな中、事件は起きた。富山駅周辺は路面電車が縦横に走る、情緒溢れる街並みだ。その分、歩行者は至る所で踏切を渡る必要がある。私は、実は踏切があまり得意ではないあの警報音と、いつ遮断機が降りてくるかという圧迫感が、どうにも焦りを誘うのだ。その時も、私は「早く渡り切らなければ」と足早に踏切を越えた。
その瞬間だった。

ガツン! という衝撃とともに、視界が揺れた。踏切の先に設置されていた柱に、前方不注意のまま激突してしまったのだ。おでこにジンジンとした痛みが走り、触れてみると少しばかり切ってしまっていた。

「やってしまった……」

取材先でのまさかの負傷。現代的なケアを考えるなら、すぐに薬局を探して消毒液と絆創膏を買うべきだろう。しかし、その時の私を支配したのは、ある種の開き直りだった。「傷口なんて、放っておけば治るだろう」。それは、かつての少年時代に培われた「昭和的発想」だった。多少の傷は勲章のようなもの。そう自分に言い聞かせ、私はあえて何事もなかったかのように立ち上がった。痛みはあったが、それもまた富山の思い出の一部として刻まれる。

帰路:音の中に閉じ込めた旅の記憶

時間が過ぎるのは早い。おでこの傷の痛みも少し落ち着き、私は名古屋行きのバスへと乗り込んだ。車窓から遠ざかる富山の街明かりを感じながら、今回の旅を振り返る。

最新型車両の点字に触れた感動、8番らーめんの温もり、そして踏切での「やらかし」。どれもが、この場所に来なければ得られなかったライブな体験だ。

私はバッグの中の録音機材を確認する。今回の取材で収録した「音」の中には、私の話し声だけでなく、富山の風の音や路面電車の走行音など、あの場所でしか録れなかった空気感が詰まっている。これらの音声は、私のポッドキャスト「音で旅ラジ」で公開している。テキストでは伝えきれない、現場の「空気の揺らぎ」を、リスナーの皆さんにもぜひ体感していただきたい。

富山滞在6時間半。おでこに小さな傷をこしらえ、心には大きな満足感を抱えて。
筒井安彦の取材旅は、これからも続いていく。

アイデア&ヒント


 

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