デジタルを命の守り手に

全盲の僕に見えること~地域移行しています~(第12回)

(文・写真撮影:筒井 安彦

情報は「持っている」だけでは足りない

みなさん、こんにちは。iPadライフクリエーターの筒井安彦です。

日々、iPadを単なるタブレット端末としてではなく、人生の可能性を広げる相棒として使い倒す方法を提案している私ですが、今回は少し視点を変えて、私たちの命に直結する「避難」についてお話ししたいと思います。

災害大国と言われる日本において、情報をいかに入手し、それをどう行動に繋げるかは永遠の課題です。特に視覚に頼ることが難しい方々にとって、デジタルの力は「便利」を超えた「生命線」となります。しかし、一つのツールに依存することは、そのツールが機能しなかった瞬間に立ち往生することを意味します。

今回は、話題のアプリ「ユニボイスブラインド(Uni-Voice Blind)」への私なりの評価と、それを補うための「情報の多角化」について、私の実践しているスタイルを詳しくご紹介します。

ユニボイス(Uni-Voice)とは
音声コード(文字情報を二次元コードにしたもの)をスマートフォンで読み取ることで、印刷物の文字情報を音声で読み上げるものです。多言語対応スマホアプリの「Uni-Voice」と、視覚障がい者向けスマホアプリの「Uni-Voice Blind」があります。アプリは、iPhoneならびにAndroidの各アプリストアより無料でインストールできます。

「ユニボイスブラインド」への期待と、見えてきた課題

昨年から本格的な対応が開始された「ユニボイスブラインド」。このアプリを実際に手にとってみた私の率直な感想は、「非常に使いやすく、アクセシビリティに配慮された優れた設計である」ということです。

音声読み上げを前提としたUI(ユーザーインターフェース)は、私たちにとって情報の壁を低くしてくれます。特に、自治体が発行する広報紙や配布物を音声で確認できる機能は、これまでの「紙の情報」という高い障壁を打ち破る画期的な一歩でした。

しかし、iPadライフクリエーターとしてシビアな視点で評価するならば、一点、非常に残念であり、かつ致命的とも言える欠点があります。それは、「お知らせの通知機能(プッシュ通知)がない」ということです。

なぜ「通知」が重要なのか

災害は、私たちがアプリを開くのを待ってはくれません。夜中、就寝しているとき、あるいは作業に没頭しているときに、向こうから飛び込んでくる「音」や「振動」こそが、避難の第一動機となります。自分から情報を取りに行かなければならない今の仕様では、緊急時の初動が遅れるリスクを否定できません。

また、ユニボイスブラインドに搭載されている「音声ハザードマップ」についても、情報量自体は非常に豊富で、現在地の危険度を把握するには有効です。しかし、果たして「緊急時」にその膨大な情報を冷静に引き出し、瞬時に理解できるでしょうか?

パニック状態にある人間が、複雑な階層を辿ってハザードマップを開き、読み上げられる詳細な情報を整理するのは至難の業です。ここに、デジタルツール活用の難しさと、私たちが備えるべき「工夫」の余地があります。

「在宅避難」という選択肢と、平時の準備

私は災害時、自宅に留まれる状況であれば、できる限り「在宅避難」を想定して動いています。住み慣れた環境、使い慣れたiPadやデバイス、そして何がどこにあるか把握できている空間は、二次被害を防ぐための大きなアドバンテージになるからです。

ただし、在宅避難を成立させるためには、「今、外はどうなっているのか」「このまま家にいて本当に安全か」を判断するための正確なデータが不可欠です。そこで重要になるのが、先ほど挙げた音声ハザードマップの「予習」です。

ユニボイスブラインドの画面
ユニボイスブラインドの画面
名古屋市防災アプリには、雨雲レーダーもついている。地図は、スクリーンショットした画面をAIに読み上げてもらう
名古屋市防災アプリには、雨雲レーダーもついている。地図は、スクリーンショットした画面をAIに読み上げてもらう
健常者と共に歩く「フィジカルな確認」

音声ハザードマップは、平時に聞く分には非常に有用な情報源です。しかし、いざ避難が必要な場面で初めて耳にしても、「右側に崖があります」「浸水想定区域です」と言われるだけでは、具体的な風景や足元の感覚が伴いません。「何のことかわからない」という混乱を招くだけです。

だからこそ私は、平時に健常者の方と一緒に、ハザードマップの情報と実際の道を照らし合わせながら歩くことを強く推奨しています。

  •  「アプリではこう言っているけれど、実際にはここに小さな段差があるね」
  • 「この場所は、大雨が降るとあそこの側溝から水が溢れそうだ」

こうした「情報の肉付け」を自分の中にストックしておくことで、緊急時に音声ガイドを聞いた際、脳内に具体的な地図が立ち上がるようになります。デジタルとアナログ(身体感覚)の融合こそが、最強の防災訓練なのです。

情報の穴を埋める「アプリの多角化戦略」

ユニボイスブラインドには、現時点で「雨雲レーダー」機能が搭載されていません。これは気象状況をリアルタイムで把握したい私たちにとって、大きなミッシングピース(欠けた破片)です。そこで私は、一つのアプリに全てを委ねるのではなく、複数のアプリを組み合わせる「ハイブリッド・システム」を構築しています。

1. 名古屋市「防災アプリ」

私が住む名古屋市が出している公式アプリです。自治体独自の避難所開設情報や、地域に特化した詳細なハザードマップを確認するために利用しています。自治体公式という信頼性は、デマが飛び交いやすい災害時には心の支えになります。

2. 「Yahoo!防災速報」

これは私が最も重宝しているアプリの一つです。ユニボイスブラインドに欠けている「プッシュ通知」と「雨雲レーダー」の機能を補完してくれます。

  • 豪雨予報の通知: 「あと10分で激しい雨が降ります」という通知が来るように設定しており、これが避難判断や家財を守るためのアラートになります。
  • 視覚情報の補完: 画面が見えなくても、通知の頻度や内容から「今、事態が切迫している」ことを肌で感じることができます。
慌てないための「デジタル・ポートフォリオ」

避難において最も恐ろしいのは、情報が入らないことではありません。「一つの情報源に固執し、それが途絶えたときにパニックになること」です。

私はこれら複数のアプリを使い分けることで、情報を多角的に得るだけでなく、「いかにして慌てることがないようにするか」を常に考えています。

  • Aのアプリで通知が来たら準備を始める。
  • Bのアプリで避難所の状況を確認する。
  • Cのユニボイスブラインドで詳細な地形のリスクを再確認する。

このように、情報の入り口を複数持っておくことは、心の余裕(バックアップ)を持つことと同じです。

デジタルデバイスは、私たちに「自律」を与えてくれます。しかし、そのツールをどう使いこなし、どう弱点を補い合うかは、使う側の知恵にかかっています。

  • 「雨雲レーダーがないなら、他のアプリで補えばいい」
  • 「通知がないなら、通知が得意なアプリに任せればいい」

こうした柔軟な考え方こそが、iPadライフクリエーターとしての私の矜持であり、皆さんに伝えたい避難の極意です。

皆さんもぜひ、一つのアプリに満足せず、自分だけの「防災デジタル・セット」を構築してみてください。その準備が、いつかあなたの大切な命を救う鍵になるはずです。


次回もお楽しみに!


  • iPadは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。
  • その他の社名、製品名は、各社の登録商標または商標です。

【編集部より】
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