全盲の僕に見えること~地域移行しています~(第14回)
(文・写真撮影:筒井 安彦)
みなさんこんにちは。iPadライフクリエーターの筒井安彦です。
日々、テクノロジーの進化を暮らしにどう取り入れ、より豊かで快適なライフスタイルを築いていくか。そんなテーマを掲げて活動している私ですが、今回は最近使い始めた、ある画期的なガジェットについて皆さんに詳しくご紹介したいと思います。
それは、歩行振動ナビゲーションシステム「あしらせ(ashirase)」です。
視覚に障害を持つ私たちにとって、初めての場所へ行くことや、日々の移動をスムーズに行うことは、常に工夫と少しの緊張を伴うものです。そんな移動の概念をガラリと変えてくれる可能性を秘めたこの機器について、私の体験談や感じた可能性を余すことなくお伝えします。


1. 「あしらせ」との出会いから購入までの道のり
実は、私がこの「あしらせ」という機器の存在を知ったのは、数年も前のことでした。視覚障害者の移動をサポートする新しいコンセプトのデバイスとして、ニュースやSNSで見かけた時から「これはいつか試してみたい」とずっと心に引っかかっていたのです。
動きがあったのは昨年の2月頃のこと。なんとビックカメラ名古屋駅西店で「あしらせ」の体験会が開催されるという情報をキャッチしました。百聞は一見にしかず、ということでさっそく店舗へ足を運び、実際に体験させてもらうことにしたのです。
初めて靴の中に専用のデバイスを装着し、足元に伝わる振動を体感した時の衝撃は今でも忘れられません。「なるほど、これなら歩きながら自然にルートを把握できるかもしれない」と、その場で購入することを心に決めていました。
しかし、タイミングや諸事情もあり、そこから実際に手にするまでには少し時間が空いてしまいました。体験から1年4ヶ月が経ったある日のこと、友人から耳寄りな情報を教えてもらったのです。
「『あしらせ』、2週間のお試しレンタルができるプランがあるみたいだよ」
その言葉を聞いて、私はすぐに申し込みを行いました。高価な機器や、日常的に使う支援ツールは、店舗での短い体験だけでなく、実際の自分の生活導線(いつもの道や、よく行く場所)で使ってみてこそ本当の価値がわかるからです。
2週間の試用期間中、私は毎日のように「あしらせ」を装着して歩きました。結論から言うと、期待通りの、いや期待以上の使い勝手の良さを実感し、そのまま正式な購入へと至ったのです。
2. 「あしらせ」の仕組みと優れた操作性
では、この「あしらせ」が一体どのような仕組みで私たちをナビゲートしてくれるのか、その具体的な機能と使い勝手について解説していきましょう。
■ Bluetooth接続とスマホ連携
システムは非常にシンプルです。靴に装着する専用の振動機器と、手元のスマートフォンをBluetooth(ブルートゥース)で接続します。
移動の準備は、スマートフォンの専用アプリを立ち上げ、目的地を音声入力やテキスト入力で設定するだけ。これだけで、スマートフォンが算出した経路情報がリアルタイムで足元の専用機器へと送られる仕組みになっています。
■ 直感的な「足元の振動」によるナビゲーション
最大の最大の特徴は、経路の誘導を「音」ではなく「足の振動」で教えてくれる点です。
- 「まっすぐ進むときは足の甲が震える」
- 「右に曲がるときは右足の側面が震える」
- 「左に曲がるときは左足の側面が震える」
- 「もうすぐ曲がり角が近づいているときは振動のパターンが変わる」
このように、直感的にどちらへ進めばいいのかが、足裏や足の側面の感覚を通じて伝わってきます。
さらに嬉しいのが、この足の振動の強弱やパターンを、スマホ側で細かく設定できる点です。
人間の触覚や感覚の鋭さは、人によって千差万別。また、その日の体調や、履いている靴の厚み(スニーカー、革靴、ブーツなど)によっても、振動の感じ方は変わってきます。
「あしらせ」は、自分の感覚や好みの「塩梅(あんばい)」に合わせてカスタマイズできるため、非常に足に馴染みやすく、ストレスのない快適な使い勝手を実現しています。

■ 初めての場所でも、いつもの場所でも
目的地をスマホで簡単に設定できるため、「初めて行く場所」であっても、気後れすることなく気軽に設定して出かけられるようになりました。これは移動のハードルを大きく下げてくれる、私にとって最大のメリットです。
また、サブスクリプション(月額課金)プランを契約・設定しておくことで、「マイルート」の登録機能が解放されます。
自宅から最寄り駅まで、あるいはよく行く職場やスーパー、お気に入りのカフェなど、日常的に使うお決まりのルートをあらかじめ登録しておけば、毎回目的地を検索し直す手間が省け、ワンタップでナビゲーションを開始できるので非常に楽です。
3. 使ってみてわかった注意点と、驚きの先進機能
どんなに優れた最新テクノロジーにも、できることとできないことがあります。それを正しく理解し、自分の知恵と組み合わせて使うことこそが「iPadライフクリエーター」としての私のこだわりでもあります。
▲ 信号機の識別は「自力」での工夫が必要
使ってみて改めて確認できた注意点としては、「信号機の赤や青などの色は教えてくれない」という点です。
「あしらせ」が教えてくれるのは、あくまで「ルート(道順)」と「方向」です。目の前の信号が今渡れる状態なのか、それとも止まるべきなのかは、これまで通り周囲の音に耳を澄ませたり、近くにいる人の気配を感じ取ったり、盲導犬や白杖の手応えを頼りにしたりと、自力で安全確認の工夫をする必要があります。
ナビに100%依存するのではなく、自分の五感と組み合わせることで、初めて安全で確実な歩行が成立します。
◎ 周囲の状況を捉える最新のカメラ機能
一方で、「あしらせ」には現代のテクノロジーならではの、かなり便利な機能も搭載されています。それが「カメラ機能を使った現在位置の把握と状況活用」です。
ナビゲーションを開始する際、スマートフォンのカメラを使って、自分が今いる現在位置の周囲の状況をぐるっと撮影します。すると、アプリがその画像情報を分析し、GPSだけではズレが生じがちな「スタート直後の正確な現在地や向き」を補正・認識してくれるのです。
さらに、その撮影した周囲の状況データをナビゲーションに活用することもできるため、スタート直後に「どちらの方向に向かって歩き出せばいいのか分からない」という、視覚障害者あるあるの迷子問題を劇的に解消してくれます。これは本当によく考えられた、実用性の高い先進機能だと言えるでしょう。
4. フィードバックという私たちの「大切な仕事」
私たち視覚に障害がある人間が、こうした新しい機器やサービスを日常生活の中に積極的に取り入れ、さまざまな工夫をしながら日々を過ごすこと。私は、これ自体が単なる「消費」や「生活」に留まらない、重要な意味を持っていると考えています。
それは、「開発者側へのフィードバックをすること」です。
テクノロジーを作る側の人たちが、どれだけ当事者のことを考えて開発してくれたとしても、実際に街に出て、雨の日に歩き、雑踏の中で使い、公共交通機関を乗り継ぐ中でしか見えてこない課題や改善点は必ずあります。
- 「こういうシチュエーションでは、もう少しこういう振動の方がわかりやすい」
- 「アプリのこの画面の読み上げ機能をもっとスムーズにしてほしい」
- 「こういう機能が追加されたら、もっと行動範囲が広がる」
こうしたリアルな生の声、生きたデータを開発チームに届けることは、私たちユーザーにしかできない「大切な仕事の一つ」なのだと思うのです。私たちのフィードバックによって製品がブラッシュアップされれば、次にその機器を手にする仲間たちが、より安全に、より笑顔で外に出られるようになります。
5. テクノロジーがもたらす、これからの福祉とバリアフリーなまちづくり
「あしらせ」のようなデバイスを使いながら、私はこれからの社会のあり方について、よく考えを巡らせています。
これまでのいわゆる「福祉」や「バリアフリー」というと、街中に莫大な費用をかけて点字ブロックを敷き詰めたり、駅にエレベーターを設置したり、音声案内装置を取り付けたりといった、「ハードウェア(物理的なインフラ)の整備」が中心でした。もちろんこれらは今でも、そしてこれからも絶対に不可欠なものです。
しかし、すべての道路や建物に完璧なインフラを整えるには、膨大なお金と時間がかかります。地方の小さな町や、古い歴史を持つ先進的な都市の入り組んだ路地裏まで、すべてをハード面でバリアフリー化するのは現実的に不可能です。
ですが、今回ご紹介した「あしらせ」のような、スマートフォンと小さな個人のデバイス(ソフトウェアとスマートガジェット)を組み合わせるアプローチはどうでしょうか。
インフラを丸ごと改造するのではなく、個人の持つテクノロジーの力で、目の前の景色をバリアフリーに変えていく。これなら、自治体や国家の大きな財政負担に頼り切ることなく、「お金のかかりにくい、それでいてしっかりと機能するバリアフリーなまちづくり」が可能になります。
そして何より素晴らしいのは、こうしたテクノロジーの普及によって、「障害者と健常者の垣根がなくなっていく」ということです。
スマートフォンのナビを見ながら歩くのは、健常者の方々も毎日やっている日常の風景です。私たちが「あしらせ」を使って足元の振動でスマートに目的地へ向かう姿は、周囲から見れば「最先端のガジェットを使いこなしてスマートに移動している一人の人間」であり、そこに「可哀想な障害者を助ける福祉」という色眼鏡はありません。
「障害があるから支援してもらう」という従来の福祉の考え方から一歩進んで、誰もが自分の好きなツールを選び、自分の力で自由に、軽やかに街へ飛び出していく。そんな、福祉という言葉さえ必要としなくなるような、フラットでワクワクする未来がすぐそこまで来ています。
「あしらせ」を相棒に、次はいったいどこへ出かけようか。そんなことを考えながら、新しいお気に入りの靴を履いて外へ一歩踏み出す、今日この頃です。
皆さんもぜひ、身近なテクノロジーがもたらす未来の可能性に、目を向けてみてはいかがでしょうか。
- Apple および iPadは、米国その他の国で登録された Apple Inc. の商標です。
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【編集部より】
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