点字がついていない家電と生きる「工夫という名の努力」

全盲の僕に見えること~地域移行しています~(第15回)

(文・写真撮影:筒井 安彦

みなさんこんにちは。iPadライフクリエーターの筒井安彦です。

世の中はすっかり本格的な夏を迎え、厳しい暑さが続く毎日となりましたね。じりじりと照りつける太陽の下、みなさんはどのようにお過ごしでしょうか。私は水分補給や室内の温度管理など、熱中症の対策をしっかりと取りながら、日々の生活を工夫して元気に過ごしています。みなさんもどうか体調を崩されぬよう、くれぐれもご自愛ください。

さて、今回のテーマは「家電製品」についてです。

以前、このコラムの中で、操作パネルやボタンに「点字」がついているアクセシブルな家電製品についてお話ししたことがありました。点字がついている家電は、私たち視覚障害者にとって非常に心強い味方であり、直感的に、そして正確に機械をコントロールするための大きな助けになります。しかし、世の中を見渡してみると、そうした点字付きの親切な家電ばかりではありません。むしろ、市場に流通している一般的な家電製品の大多数には、点字などの視覚障害者向けの配慮が施されていないのが現状です。

そこで今回は、一見すると使うのが難しそうな「点字がついていない家電」を、私たちがどのように使いこなしているのか、その具体的な「生活の工夫」と、それにまつわる悲喜こもごものエピソードをお届けしたいと思います。

点字がなくても、指先は「手がかり」を探している

「点字がついていない家電はどうやって操作しているのですか?」と聞かれることがよくあります。画面がタッチパネル化し、ボタンの凹凸すらなくなっていく現代の家電トレンドは、私たちにとって大きな障壁になりつつありますが、昔ながらのアナログな機構が残る家電や、デザインの中に「わずかなヒント」が隠されている家電であれば、人間の身体感覚をフルに活用することで十分に操作が可能です。

例えば、我が家にある電子レンジポップアップトースターがその良い例です。

これらの家電には当然、点字の案内などありません。しかし、時間を設定するためのダイヤルや、焼き加減を調整するための「ちょっとしたつまみ(ノブ)」をよく触ってみると、そこには必ずと言っていいほど小さな「出っ張り」や「溝」が存在します。

私はこの「出っ張り」を基準点(ゼロ地点)として指先で記憶し、そこから時計回りにどれくらい回したか、という感覚を頼りに時間を調整しています。「この角度まで回せばだいたい2分」「真上を向けば3分」といった具合に、つまみの傾きを手のひらと指先の感覚で覚えるのです。慣れてしまえば、いちいち目で見なくても、驚くほど正確にトースターの焼き加減をコントロールできるようになります。

また、最近嬉しい出来事がありました。友人からオーディオミキサを譲り受けたのです。音声を扱う機材は、私のような音声コンテンツに関わる人間にとって大切な道具ですが、これもやはり一般的な商業製品であり、点字のサポートはありません。しかし、このミキサーのボリューム調整フェーダーや回転式のつまみにも、小さな出っ張りがついていました。

点字が付いていない愛用の電子レンジ
点字が付いていない愛用の電子レンジ
配信用オーディオミキサー
配信用オーディオミキサー

音量のバランスを微調整する際、この指先に触れるわずかな突起の位置を確認しながら、「いまは全体の7割くらいの音量だな」「少し高音を削ろう」といった判断をしています。このように、一般の家電や精密機械においては、点字がついていない分、「製品が本来持っている形状の特徴をどのように見つけ出し、工夫して使っていくか」が、私たちの生活における一つの大きな知恵であり、重要な課題になるのです。

ハイテク技術か、それとも「工夫という名の努力」か

とはいえ、すべての家電がつまみ一つで動かせるわけではありません。現代の家電、特にエアコンのように、現在の設定温度や風向がすべて液晶画面にしか表示されない製品は、視覚障害者にとって最も手強い相手の一つです。

リモコンのボタンを押しても「ピッ」と音が鳴るだけで、いま設定が24度なのか28度なのか、冷房なのか暖房なのかすら、音だけでは判別がつかないことが多いからです。

こうした最新家電に対峙するとき、私はヘルパーさんの目を借りることがあります。定期的に来てくださるヘルパーさんに、「いまのエアコンの設定はどうなっていますか?」と確認してもらい、基本となる快適な温度に固定してもらうのです。一度設定が決まってしまえば、あとは電源のオン・オフだけで夏を乗り切ることも珍しくありません。

一方で、同じ視覚障害を持つ友人たちの話を聞くと、非常に興味深い進化を感じます。彼らは最先端のハイテク技術を駆使して、エアコンの温度管理やスマートホーム化を実践しているのです。

例えば、スマートフォン(iPhoneなどのVoiceOver機能)と連携できるスマート家電を導入したり、AIスピーカー(Amazon AlexaやGoogleアシスタントなど)を音声で操作して、「アレクサ、エアコンの温度を26度にして」と指示を出したりしています。これなら液晶画面が見えなくても、自分の声だけで完全に家電をコントロールすることができます。非常にスマートで、自立した素晴らしい解決策だと思います。

しかし、こうしたスマート家電や環境を整えるためには、相応の初期投資や通信環境の整備が必要です。正直に申し上げて、私にはそこまでの経済的余裕はありません(笑)。

だからこそ、私はハイテク技術に頼り切るのではなく、自分の身体と感覚、そして身の回りにあるものを総動員する「工夫という名の努力」を日々怠らないようにしています。

高価なシステムを買えなくても、ボタンに市販の小さな凸点シール(お助けシールなどと呼ばれる、触って分かるシール)を貼るだけで、数円のコストで家電をアクセシブルに変えることだってできるのです。知恵を絞り、指先を研ぎ澄ますこと。それこそが、私の生活を支えるエンジンのようなものです。

我が家はもともと置いてある家電製品の数が少ないため、自分一人のルールで管理できており、それほど大きな混乱や不便は起きません。自分自身の「工夫という名の努力」だけで、ある程度完結できるからです。しかし、これが「視覚障害者と健常者が同居する家庭」となると、話は一気に複雑になります。

健常者の感覚からすれば、「目で見て、あそこにあるってすぐ分かるじゃない」ということになります。しかし、視覚障害者にはその「あそこ」が全くわかりません。こうした認識のズレから、「どうして決まった場所に置いてくれないの!」「そんなに怒らなくても、すぐそこにあるよ」と、家族間で揉め事に発展してしまうケースは決して珍しくないようです。悪気がないからこそ、解決が難しい家庭内のリアルな課題と言えます。

父と洗濯機と、私の文句

こうした家電にまつわる苦労を考えていると、ふと昔のことを思い出します。まだ私が父と一緒に暮らしていた頃の記憶です。

当時、我が家には古い洗濯機がありました。もちろん点字なんて一切ついていない、ごく一般的な全自動洗濯機です。父はよく、私にその洗濯機の操作を頼んできました。「おい、洗濯機を回してくれ」と。

当時の私にとって、その操作は本当に一苦労でした。どのボタンが電源で、どのボタンがスタートなのか。水位の調整やコースの選択はどうすればいいのか。指先で触っても、平らなプラスチックのパネルが広がっているだけで、何の手がかりもありません。毎回、手探りでボタンの位置を必死に推測しながら、一か八かで押し込むような状態でした。

「点字も付いていないんだから、私に頼まれても困るよ!」 「もっと分かりやすい洗濯機にしてよ!」

そんな風に、操作の難しさに苛立って、父によく文句を言っていたことを今でも鮮明に思い出します。父からすれば、息子にちょっと手伝ってほしかっただけ、あるいは私を頼りにして声をかけてくれただけだったのかもしれません。それなのに、家電が不親切であることのストレスを、そのまま父への文句としてぶつけてしまっていたのです。

今になって振り返れば、「もう少し優しい言い方ができたな」とか、「一緒にボタンに目印をつける工夫でもすればよかったな」と、少し苦い後悔とともに懐かしさが込み上げてきます。それと同時に、あの頃から視覚障害者と家電、そして家族の関係性における課題は、本質的には何も変わっていないのだな、とも実感するのです。

工夫を楽しみながら、これからの夏を乗り切る

世界中にあふれる、点字のついていない家電たち。それらは一見、私たち視覚障害者を拒絶しているようにも思えます。しかし、視点を変えれば、それらを自分の知恵と指先の感覚で「いかに攻略するか」という、終わりのないパズルのようでもあります。

最新のハイテク技術でスマートに解決する友人の姿にも憧れますが、私は私らしく、身の丈に合った「工夫という名の努力」を重ねていきたいと思っています。ダイヤルの小さな出っ張りに感謝し、機材の個性を指先で愛おしみながら、この不親切な、だけど工夫次第で応えてくれる家電たちと共に、この暑い夏をクリエイティブに乗り切っていく所存です。

みなさんのご家庭でも、もし「リモコンの置き場所」に迷っている方がいたら、ぜひ今日から「定位置」を厳守してみてください。それだけで、誰かにとっての我が家が、劇的に居心地の良い場所に変わるかもしれません。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう!


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【編集部より】
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