全盲の僕に見えること~地域移行しています~(第16回)
(文・写真撮影:筒井 安彦)
こんにちは、iPadライフクリエーターの筒井安彦です。
日常の中で「料理をする」ということは、多くの人にとって身近な営みであり、同時に少し億劫に感じることもあるプロセスかもしれません。では、全盲である私のような視覚障害者は、一体どのようにして日々の料理に向き合っているのでしょうか?
「目が見えないのに、火や包丁を使って料理をするなんて危なくないの?」 「焼き加減や炒め具合はどうやって確かめているの?」
そんな疑問を持つ方も多いかと思います。今回は、私自身の料理作りの具体的な工夫や工夫の視点、そして何より私自身の技術だけでなく、「世の中の技術発達や便利グッズの進化」がどれほど私たちの暮らしを支え、可能性を広げてくれているかについてお話ししてみたいと思います。
「できない」を「できる」に変える道具の力
私の料理作りを語る上で、まず最初に強調しておきたいことがあります。それは、私の料理を支えている大きなウェートを占めているのが、世の中の「技術発達」や「製品の進化」であるということです。
視覚障害者が一人で安全に、かつ快適に料理を楽しむためには、本人の工夫や慣れも大切ですが、それ以上に「道具の力」が欠かせません。
その象徴的なアイテムの一つが、私が愛用しているフライパンです。このフライパンは、人気ショップの「スリーコインズ(3COINS)」で手に入れたものなのですが、本当に使いやすくて重宝しています。
現代のフライパンは、コーティング技術が非常に優れています。焦げ付きにくく、食材がスムーズに滑るコーティングがしっかりと施されていれば、調理中のストレスは劇的に減ります。焦げ付きを気にせず楽に食材を扱えるということは、視覚に頼らず感覚で調理をする私たちにとって、安全面でも精神面でも非常に大きな助けになるのです。こうした手軽で高品質な製品が身近なショップで安価に手に入る時代になったこと自体、素晴らしい進化だと実感しています。

色が見えなくても「音」と「感触」で食材と対話する
私たち全盲の人間は、食材に火が通って色が変わっていく変化を目で確認することができません。「きつね色になったら」「しんなりして色が透き通ってきたら」という一般的な調理の指標は、そのままでは使えないのです。
では、どうやって焼き加減や炒め具合を判断しているのでしょうか? その答えは「音」と「手応え(感触)」にあります。
フライパンに野菜を入れて炒め始めると、ジュージューという威勢のいい音が響きます。そこに塩や胡椒といった調味料を振ると、不思議なことに、一瞬でジュッと音が変化します。食材から水分が出ていく音、油と弾け合う音、それらが混ざり合う音……。音の高低やリズムに耳を澄ませることで、フライパンの中で今何が起きているのかを正確に把握することができるのです。
また、手にした「菜箸」から伝わってくる手触りも、非常に重要な手掛かりです。 最初は生々しく硬かった野菜が、火が通るにつれて徐々に柔らかくなり、菜箸を押し返してくる抵抗感が変わっていきます。炒めていくうちに調味料を加えると、食材の表面の滑らかさが変わり、音もさらに変化していきます。
色が見えなくても、耳と手足の先にあるような菜箸の感覚を研ぎ澄ますことで、食材の状態を手に取るように知ることができる。私にとって炒め物は、まさに音と感触を頼りに「私好みの味や焼き加減」に整えていく、五感を使ったクリエイティブな作業なのです。そして、そうして出来上がった料理が自分の口に入った瞬間の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。
超便利商品が引き下げる「火傷やケガのリスク」
世の中の進化といえば、近年の加工食品や冷凍食品の進化にも目を見張るものがあります。特に私が感動しているのが、餃子などの「水も油もいらない」とうたう製品の存在です。
通常、餃子を焼くとなると、適切な量の油をひき、餃子を並べ、途中で水を加えて蓋をし、蒸し焼きにする……という工程が必要です。しかし、全盲の状態で熱いフライパンに油をひいたり、水を注いで油跳ねを起こしたりすることは、火傷(やけど)のリスクが高く、かなりの神経を使います。
ですが、「水も油もいらない」餃子であれば、そのリスクを大幅に減らすことができます。 火をつける前の冷えたフライパンの上に、指先の感覚でバランスよく餃子を並べておくだけ。あとは火をつけて待つだけです。

焼き上がりのタイミングも、やっぱり「音」が教えてくれます。最初はジューシーに蒸気とともに聞こえていた音が、水分が飛ぶにつれて「パチパチ」「チリチリ」という香ばしい音へと変わっていきます。その音の変化こそが「出来上がり」のサインです。火傷のリスクを最小限に抑えつつ、完璧な焼き加減のパリッとした餃子が焼ける。こうした製品の進化は、障害を持つ人々のQOL(生活の質)を間違いなく引き上げてくれています。
不格好でもいい。「できた」という喜びを重ねて
最近では、少しずつ挑戦の幅が広がり、卵焼きも作れるようになりました。
正直にお話しすると、お店で売っているような、あるいは目が見える方が作るような「くるくると綺麗に丸まった美しい卵焼き」を作るのは、私にはまだ難しく、できません。だから私作るのは、フライパンの上で平べったく焼き固めた、少し武骨な卵焼きです。
けれど、形が平べったかろうが何だろうが、自分で卵を割り、味を付け、火の通りを音と感触で確かめながら焼き上げた卵焼きの味は格別です。
大切なのは、「完璧な見た目を作ること」ではなく、「自分自身の手で作り上げ、美味しく味わうこと」。そして「作れるものが一つ増えた」という実感を得ることです。技術の発達や便利グッズを上手に応援団として巻き込みながら、自分の工夫を少しずつ重ねていく。そのプロセスそのものが、私の日々の暮らしに大きな彩りを与えてくれています。
テクノロジーと工夫がひらく未来
私は日頃、「iPadライフクリエーター」としてデジタルツールの魅力や活用法をお伝えする活動をしています。一見すると、デジタル製品と「フライパンでの料理」は全く別物のように思えるかもしれません。
しかし、「テクノロジーや世の中の工夫を活用して、自分の『できる』を増やし、人生をより豊かで快適なものにする」という根底にあるテーマは、私の中で完全に一つに繋がっています。
スリーコインズの高品質なフライパン、水や油が不要な冷凍食品、そして音や感触を捉える自分の感覚——。これらが組み合わさることで、全盲である私のキッチンは、毎日美味しい発見が生まれる素晴らしいスタジオへと変わります。
これからも世の中の便利な進化を貪欲に取り入れつつ、自分らしい工夫を楽しみながら、一歩ずつ新しい「美味しい」に挑戦していきたいと思います。
皆さんもぜひ、日々の料理の中で聞こえる「音」や手元に伝わる「感触」に、少しだけ耳と心を傾けてみてください。きっと、いつものキッチンに新しい発見があるはずです。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
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【編集部より】
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